ストレスチェックとは、2015年に従業員50人以上の事業所に義務づけされた、心理的な負担の程度を測定するテストのことです。
一般的には厚労省HPなどに掲載されている「職業性ストレス簡易調査票」を用いて行われます。
一定の要件を満たせば、他の質問紙を用いることもできますが、厚労省の指針では、「職業性ストレス簡易調査票」を用いることが望ましいとされています。
さて、この「職業性ストレス簡易調査票」ですが、57項目の質問に対して、自己申告により、質問の内容に当てはまっているかどうか4段階で評価していきます。
この「自己申告」というところに注目してみます。
通常、心理学的なアセスメントに用いられる質問紙には、「嘘」を見抜くための「嘘の尺度(lie scale)」が含まれています。
この「嘘の尺度(lie scale)」の点数が高いと、その質問紙の結果はあまり信用できないと判断されます。
「職業性ストレス簡易調査票」にはこの「嘘の尺度(lie scale)」がありません。
ということは、「結果を欺ける」という話ではなく、完全に受検した「従業員の主観」であるということになります。
ストレスチェックはメンタルヘルス不調を未然に防止するため(一次予防といいます)に行われています。
つまり、あくまでメンタルヘルス不調になりそうな状態の人を見つけるテストではないのです。
例えば、健康な人でも「今週は疲れたしもうだめだ」と思っている場合、ストレスが高く判定されることもあります。
この場合、たとえ心身共に健康だったとしても、この段階でしっかり対策することが、一次予防に繋がります。
このとき、本人が「ストレスが高い」ことを自覚して自己管理できるのであれば、ストレスチェックの本来の意味が生きてくると考えられます。
反対に、ストレスが高いのに「大丈夫」だと思い込んでる人もいることが考えられます。
ストレスチェックの質問紙が自己申告であることを考えると、実際にはかなり精神的に追い詰められている人でも、「ストレスが低い」と判定されることがあります。
今までの経験からすると、メンタルヘルス不調を来たしやすい人の口癖は「大丈夫」とか「頑張ります」だったりすることが多かったような気がします。
こういった人が常態的に長時間労働しているなど、ストレスがかかりやすい状況で、会社がなんの対応もしなかったとしたら、「安全配慮義務」違反が疑われることも考えられます。
一方で、職場の管理者等は、面接の申出や本人の同意がない限り、ストレスチェック結果を知ることはできません。
それでは、会社としてはどうやってこのストレスチェックを生かすことになるのか、というと、
①ストレスチェック後の対応についてきちんと周知する(面接の実施など)
②ストレスチェック結果の見かたや、生活習慣の改善や睡眠の取り方を含めたストレスの軽減方法など、社員教育を行う。
③集団分析によって職場改善に繋げる
などが考えられます。
なお、集団分析結果は衛生委員会に諮問するなどし、情報を共有するとともに異常値が見られる場合は、原因分析と改善策の策定などを行うことが考えられます。
そのほか、会社として、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止するため、あるいはメンタルヘルス不調を早期に発見するためには、日頃から心がけておくべきことがあると考えます。
それは、管理者等の職場のメンタルヘルスケアに責任を持つべき立場の方が、日頃から従業員とコミュニケーションをとると言うことです。
従業員にはストレスチェックの結果は自己管理の材料としてもらいながらも、会社としては、従業員の様子を実際に見て把握することも、一次予防や二次予防のために重要であると考えられます。
また、必要に応じて職場巡視や従業員とのやりとりなどは記録しておくと、メンタルヘルス不調の早期発見やメンタルヘルス不調により医療に繋げる時の資料となるなど、役立つ場合があります。
ただし、記録については機微に関わる部分が多いと思われますので、管理についてはくれぐれも厳重にお願いいたします。