交流分析(※)の創始者エリック・バーンは、「過去と他人は変えられない。しかし、今ここから始まる未来と自分は変えられる」と言ったそうです。(※アドラー心理学の流れを汲む心理学的手法のひとつ)
コミュニケーションは、相手と自分と、双方向で行うものですが、そうであったとしても、変えることができるのは、「自分だけ」ということなのです。
それでは、具体的にどうすることが、よりよいコミュニケーションづくりに繋がるのか、見ていきましょう。
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コミュニケーションは大まかに言えば「話す」ことと「聴く」ことでできています。
自分自身の「話す」「聴く」を少し工夫すると、コミュニケーションは変わってきます。
「カウンセラー」と呼ばれる相談業務の専門家がいますが、カウンセラーは「話す」と「聴く」に関して、専門的な「技術」を身につけています。
この「技術」が、職場のコミュニケーションの改善にも、非常に役立つと考えられます。
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それでは、カウンセリングの技術から、すぐにでも使えそうなコミュニケーションのポイントを、ピックアップしてみたいと思います。
<コミュニケーションのポイント>
①「話す」よりも「聴く」を多く(3:7くらいがベスト)
②相手の話をさえぎらないで
③相手の顔をみながら
④こまめに、うなづき・相づち(「うん」「ええ」など)をいれて
これらのことを「なんとなく」(一生懸命やろうとしないことがコツです)やってみるだけでも変わってくると思います。
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カウンセラーの技術は聴くことが主ですが、指導をするときには次のようなポイントに気をつけると、部下の仕事の上達も早くなると思われます。
<指導するときのポイント>
①相手に話させて、考えさせる。
②少しでもできていることは認めて伝える。
③「指導」=「怒る」ではない
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これについては、箇条書きではわかりにくいと思いますので、少し説明を加えます。
<①相手に話させて、考えさせる。>
指導するとき、部下などの相手に、どこがわからないのか、どういった手順を踏んだら失敗したのかを聞いてみると、指導するポイントが明確になって、短時間で理解が進むことがあります。
<②少しでもできていることは認めて伝える。>
相手が「叱られた」「怒られた」と感じているだけでは、せっかくできていたこともできなくなったり、その作業自体にやる気を持てなくなったりします。どこが「ダメ」なのか、また、どこが「できている」のかを伝えるだけでも、仕事は上達しやすくなると考えられます。
<③「指導」=「怒る」ではない>
「指導」⇒ある目的に向かって教え導くこと。
「怒る」⇒腹を立てる。おこる。いきどおる。
人間は感情の生き物なので、「怒る」こと自体は仕方のないことです。「感情」自体は否定されるものではありません。しかし、仕事を上達させるために「指導」するのであれば、その「目的」をしっかり相手に伝えなければなりません。
例えば、感情と指導の目的を分けて表現することが考えられます。
「感情」:私は、怒っている(感情を表現する⇐ぶつけるのではなく)。
「指導」:私は、あなたにこうして欲しい(目的を示す)。
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上述のような「私は~」を主語とする表現を、カウンセリングの世界では「アイ・メッセージ」と言います。
「あなたは~ができていない」(相手が主語)という言い方をした場合、部下である社員は自分の考えを差し挟む余地はなく、ただ上司の「ダメ出し」に従わされるだけという構図となり、仕事への主体性が失われていくと考えられます。
(⇒「上司のために仕事をしている」)
対して、「私は、あなたの~ができていないと感じている」と、主語を「私」(上司自身)にした場合には、部下は、上司から押しつけられて仕事をするのではなく、自分(部下自身)で考える余地を与えられ、自分がその仕事の主体であることに気付くと考えられます。
(⇒「自分の意志で仕事をしている」)
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人間は、自分の意志で物事を決定したり、人生をコントロールしていると感じることが、生きがいや幸せを感じることに繋がるといいます。
とすると、「アイ・メッセージ」で物事を伝えあう方が、仕事上のストレスも減るのではないでしょうか。
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エリック・バーンは、「他人は変えられない」と言っていましたが、自分の想いを「アイ・メッセージ」として伝えて、相手が「自ら変わる」よう促すことはできるのです。
そのために、自分が伝えたい想いが、相手に素直に伝わるような信頼関係(心理学では「ラポール」と言います。)を築くことが一番重要なポイントです。
これらのコミュニケーションの技術(コツ)を用いながら、職場の人間関係を醸成していくことが、パワハラを未然に防止することに繋がっていくと、私は考えています。
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指導する側もされる側も、忙しい業務の中で余裕がなくなり、つい言い方がきつくなってしまうということもよく聴きます。
コミュニケーションを改善しようにも、心身共に疲弊していては、なかなか思うようにはいかないと思います。
勤務時間の適正化や有給休暇の取得促進、そのための業務改善など、パワハワ防止につながる取り組みは様々です。
品質管理や安全管理と同様に、PDCAサイクルを回しながら、会社全体で、取り組みを継続していくことが大切だと私は考えます。
3回にわたって掲載した、パワハラ防止対策についてのコラムは今回で一旦区切りとなりますが、今後の動きをフォローしながら、機に応じた情報をご提供していきたいと思います。
<参考>
(厚生労働省HPより)
あかるい職場応援団 https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/
平成30年3月「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」
平成24年1月「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」
※ 藤井社労士事務所では、パワハラセミナーのご依頼も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。